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広島高等裁判所 昭和26年(ネ)7号 判決

控訴人 被告 原本正行

訴訟代理人 早川義彦 外二名

被控訴人 原告 谷口茂夫

訴訟代理人 星野民雄

主文

本件控訴は之を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は原判決を取消す、被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とするとの判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方事実上の主張は控訴代理人において本件手形は控訴人が発行したものである、又被控訴人に対する裏書がないから被控訴人は適法な所持人でないと釈明した外原判決摘示事実と同一であるから茲に之を引用する。

〈立証省略〉

理由

控訴人が振出日昭和二十五年一月十七日額面十五万六千円、支払期日同年二月二十日、支払地広島市、支払場所株式会社大阪銀行広島駅前支店と記載したのみで他の手形要件を白地のままとした為替手形を振出し、且つその支払の引受をしてこれを訴外日本食糧品株式会社に交付したことは控訴人の認めるところである。

原審における被告本人の供述によると控訴人は他日右訴外会社をして右白地要件を補充せしむる意思を以て右未完成の手形に引受人として署名してこれを発行したものであることが窺われるから本件手形はいわゆる白地手形として有効に振出されたものといわねばならぬ。

しかるに控訴人は右訴外会社を振出人及受取人として他に流通せしめないことの特約があつたと主張するけれ共之を認めるに足る証拠がない。却つて原審の証人湊志信、矢島栄、被告本人の供述を綜合すると右白地手形が如何に補充せらるべきかについては控訴人と右訴外会社との間に何等特定せられなかつたことが窺われるから手形所持人は取引の通念に従い自己の自由裁量により右白地部分の補充をすることができるわけである。従つて右証人湊志信の供述及同供述により成立を認める甲第一号証の一(本件手形)によれば被控訴人は右訴外会社から右白地手形の交付を受けその所持人となり自己を振出人及び受取人として補充したことが明かであるけれ共右補充は有効であつてこれを以て補充権の濫用であるとはいい難い。この点に関する控訴人の主張は採用し得ない。次に有効な白地手形を発行するには、振出人又は引受人その他の手形当事者の何れかの署名さえあれば足るので必ず先に振出人の署名の存することが基本的必要要件ではない。従つて振出人白地のままの手形に引受人として署名した者は後日振出人その他手形要件の補充せられた手形文言に従つて責を負うべきであることは論を俟たぬ。従つて本件振出人欄白地の手形にした控訴人の引受をこの一事により当然無効であるとする控訴人の主張は理由がない。

而して白地手形は白地式裏書のあつた場合と同様に裏書又は引渡によつて讓渡することができるので所持人は自己を受取人として記載し又は記載せずして裏書又は引渡により更にこの手形を第三者に讓渡し得るものと解すべきであるから右甲第一号証の一及証人湊志信の供述により明かである如く本件手形の受取人である訴外会社が自己を受取人として記載せずして引渡により本件手形を被控訴人に讓渡したのは有効であつて被控訴人は適法な手形所持人であるというべきである。従つて被控訴人に対する裏書讓渡の形式がないから被控訴人は適法な所持人でないとの旨の控訴人の抗弁もまた失当である。次に成立に争ない甲第一号証の二によれば本件手形は満期日に適法に支払の呈示がなされたが、これを拒絶せられたことが認められる。

よつて控訴人は手形引受人として本件手形金十五万六千円及びこれに対する支払期日後である昭和二十五年二月二十五日以降完済に至るまで年六分の割合の利息の支払義務があるといわねばならぬ。

右と同趣旨の原判決は相当であつて控訴は理由がないから民事訴訟法第三百八十四条第九十五条第八十九条を適用し主文の通り判決する。

(裁判長裁判官 小山慶作 裁判官 土田吾郎 裁判官 宮田信夫)

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